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狐の嫁59

飲んだ帰り。

雑木林を抜ける途中、灯りが目に入る。
夜鳴き蕎麦。こんな場所で珍しい。

小腹も空いてるし…と暖簾をくぐる。

「かけ一つ」
「生憎、素はやって無ぇんですよ」

オヤジがダミ声で言った。
妙な店だ。トッピング付けろってことか?

「じゃ、天ぷら」
「それも無ぇです」
「かしわで」
「無ぇです」
「ワカメは?」
「無ぇです」

「…ネギ」
「無ぇ」

…。どうしろと。

「何あります?」

オヤジがニタリと笑う。

「ここにあるじゃあねぇですか」
「は?」

「じんに」
「キツネおまち!」

飛び蹴り一線、オヤジもんどり打って屋台ごとドンガラガッシャン。
何事!?…と見れば、狐。チャイナ服着て拳法チックなポーズ決めてる。

「なにがなにやら」
「揚げ玉頼めば良かったんだよ」
「はあ?」

「そしたらあっちが具だ」

狐は中華式にお辞儀すると、こーんと鳴いてくるり回転しどろんと消えた。

車輪の間からフサフサの尻尾。
ひょろりすり抜け、林に逃げていった。

by zan9h | 2009-03-01 12:19 | 狐の嫁 | Comments(0)