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狐の嫁24

最近、物を無くす。

キーホルダーやストラップ、鍵などの小物から、単行本や傘、帽子、携帯電話…。
とにかく出掛けると何か一つはどっかいく。

財布に至ってはここ一月で三度代わった。
中身がすっからかんなんでそんな痛手はないんだけど。

ところで小腹が空いたのでハンバーガー屋に寄った。
一番シンプルなのを注文。いざ会計と相成るも…無い。

財布がありませんよ。着衣のあらゆるポケットまさぐってもスカスカ。
背後の視線と店員の固まった笑顔が焦りを煽る。どうしよう。マジねー。

パンツか?パンツん中か??

いい感じのテンパりに我が手があらぬ位置を探ろうとしたまさにその時。
チャリンチャリン。

「ありがとうございましたー」

爽やかスマイルに溜飲下がるも…あれ?
いやまて。パターンだときっとあいつだ。

振り向いたそこには狐…でなく男の人。鼻筋通った細面。ホスト?

「お困りの様子でしたので」

ニコリ微笑まれる。わざわざ払ってくれたの?

「財布落とされましたか」
「実はそうなんです」
「それは大変ですね。一緒に探しましょう」

キラリ光る白い歯。親切な人だなー。
小一時間路上をうろつくも見つからず。その間、終止励ましてくれた親切さん。いい人だー。

「無一文じゃ心配でしょう。これ、少しですが」

と、取り出したるは札の束。

「返済はいつでもいいですよ。一応、この書面にサインを」

ああー至れり尽くせりだなー。世の中捨てたもんじゃないなー。
と、お札に伸びた手をパン。

「ひとのアゲに手を出すな」

割って入りたる絶世の美女は…狐。切れ長瞳で男をキッと睨む。
ポッ、ポッ、ポッと宙に炎が点る。

男はチッと舌打ちすると、後ろ向いて雑踏に紛れた。

「金に目が眩むのはどうかと思うよ」
「財布落として大変だったんだよ」

たいして入ってないくせに、と狐は溜息吐いて呆れ顔。

「で、わざわざ出迎えにでも来たのか?」
「ほれ。忘れ物」

財布を渡される。

「それで良かった?溜まった洗濯物の中からあと二つ出てきたけど」
「…はい。ありがとうございます」
「本とか携帯とか他にも色々」
「…」

狐はこーんと鳴き、くるり反転すると、どろんと消えた。

空に鳶が一羽。
ハンバーガー咥え、輪を描いて飛んでった。

by zan9h | 2008-07-25 18:05 | 狐の嫁 | Comments(0)