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狐の嫁14

人は誰しも不安を抱える。
悩みを溜め込むと重い病に蝕まれ兼ねない。

スポーツ、ドライブ、食事にゲーム。
発散の仕方は数あれど、てっとり早いのが…人に相談すること。

ところで占いに来てみた。
よく当たると近所でも評判だ。その名も牛占い。

「件(くだん)をご存知か?」

占い師が言った。牛の角生やしたフード被ってる。

「必ず当たる預言をする神の使い。それが私」

何やら呪文を唱え始めた。角がクルクル回転する。

「見えた!」
「み、見えましたか…??」

「ずばりあなたは良くないものに取り憑かれてる!」

角を突きつけられる。
良くないもの…すごく思い当たるなあ。

「このまま憑かれ続けると精気を吸い取られいずれは」
「…死にますか?」
「死にます」

どうしよう。

「この魔除けの壷を差し上げましょう。これで魔を払えるはずです」
「ありがとうございます」
「10万円頂きます」

10万円で命が救われるなら安いものだ。
財布に伸ばした手を掴まれる。見れば切れ長瞳の美女。事の元凶、狐だ。

「出たな妖怪!この壷に封じてくれよう」

占い師が壷を構える。微動だにせず女は静かに言い放った。

「死ね」

冷徹な眼差しで睨む。こえー。

「預言したら死ぬのが件であろう」
「だ、だまれ。えーい!」

振り上げた壷が派手な音発てて割れた。牛角に炎が点る。

「ひ、ひえええっ」

燃えるフード投げ捨て、露になった素顔は…いつぞやのバニーちゃん。

「この化け物!」
「お互い様だろう」

狐が指を弾くとまんまる尻尾が出火した。半べそかいて脱兎する。

「さて。何か悩みがあるのか?」

聞いてやるぞとばかりに対面に座る女狐。

「主に我が家の食糧事情」
「しょうがないな。ほれ」

生活費だと渡されたのは十円玉。

「なんの冗談だ?」
「よく見てみなよ」

鳥居。裏を返しても鳥居。

「占いだけに裏が無い」
「冗談じゃないか!」

投げつけた硬貨をくるりかわし、狐はどろんと消えた。こーんと占い館に木霊する。

by zan9h | 2008-06-03 21:11 | 狐の嫁 | Comments(0)