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狐の嫁4

妖気漂う御霊ヶ原に影三つ。
片目と巨躯と髭の古狐。禁忌踏み入る人と対峙する。

「人の子よ、我らが聖地に何ようじゃ」
「よもや姫御前(ごぜ)様の輿入れの邪魔立てにあるまいな」
「やあやあそうに違いなし」

「「「ならば我ら三狐、そなたのお相手仕る!!!」」」

三匹の漆黒、疾駆して迷い人に襲い掛かる。

「その喉笛、一尾の牙が噛み千切る」
「心の臓はニ尾の爪が切り裂こう」
「三尾は仕上げの焔で屍も残すまい」

しかして人間、一尾を踏み越え、二尾をいなし、炎吐く三尾の口を塞ぐ。

「俺を踏み台にした?」
「我らが攻撃をすり抜けるなんて…信じられん」
「むぐぐぐっ」

このまま黙しては武門の名折れ。仕切り直しと三狐が身構えしその時。

「そこまでじゃ」

金糸煌びやかな十二単纏う純白の狐、社より出で参る。

「「「ひ、姫御前さまっ」」」

「色々混ざっておろうが。だいたいに於いてそちらの技はイタチのパクりであろう」

「「「へ、へーっ」」」

白き姫狐。しゃなりしゃなりと平伏す三狐の脇を通り過ぎ、人の子の前に歩み出る。

「時に人間、そなたの目的はわかっておる。傾国の美女と謳われし妾の身を奪いに参ったのであろう」

「「「なんと!おのれ人間風情が大それた企てを!」」」

殺気立つ三狐を姫狐が掌広げて制す。

「良いのじゃ。妾はこの者に傅こうぞ」

「「「何を仰るのです、姫御前さまっ」」」

「その代わりこの地を蹂躙せぬと約束してくだされ。妾は如何様にして構わぬ故」

「「「ひ、姫御前さまーっ」」」

「泣くでない。強き者に嫁ぐは女の誉れ。妖しと人の二つ世取らば一族の本懐ともなろうぞ」

姫狐跪き、三つ指突いて畏む。

「どうかよろしくお頼み申し上げます」

と。

「こうしてこのボロ屋にまかりこしましたとさ」

狐が茶を啜る。

「ちょっと待て。嘘を語るな妖怪変化」
「由緒正しき姫君様と説明したはずだが?」

茶菓子の豆大福をもちゃもちゃと頬張りやがります。

「何が姫だ。貴様は冷蔵庫に巣くう迷惑千万な物の怪だろうがっ!」

昔々この地にお稲荷さんがありました。ちょうど我が家の台所ら辺。

「新しい社は供えが粗末でいかんな」
「がーっ!」

くるりで、どろんの、こーん。

by zan9h | 2008-04-30 22:18 | 狐の嫁 | Comments(0)