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パルス⑤

車中

「毎回、朝早くすまないね」
「いえ。…あの、どうして水浦さんはそんなに熱心にこの事件を追ってるんです?」
「そう見えるかね?」
「はい」



素敵な笑顔の女性の写真

「5年前、幹原楓という結婚を間近に控えた女性が失踪した。忽然と。幹原は結婚前の女性に特有な憂鬱になる症状…マリッジブルーぎみで、ある専門医に相談していた。その人物が井出幹人」
「え?井出先生?」
「そう、そして井出幹人を彼女に紹介したのが、彼女の婚約者だった男。その男の大学時代のゼミの恩師が井出幹人だった。幹原は井出のところに通いだして数ヵ月後、姿を消し、以来現在まで行方不明だ」
「まさかその幹原って人の婚約者って…」
「そう、私だ。今まで色々な事件を手掛けたが、その都度、楓の痕跡を追っていた。一欠けらの手がかりすら得られなかったが。けれど、今回の事件はどうも引っ掛かるんだ。キミや村松のように夢で見たわけじゃないが、何か楓が私を呼んでいる気がするんだ」
「水浦さん…」

回想、森と湖を背景に髪の長い少女が立っている

─ 魔女の誕生する夜、新月の下でナイチンゲールを捧げよう

「水浦さん、今日って新月ですよね?」
「確かそうだと思う。そういえば、今日は夏至でもあるな」
「ちょっと寄ってほしいところがあるんです」
「どこかね?」
「ボクが前に通っていた中学校の裏に山があって、そこの草原である人と会ったんです。中1の時に」
「例の夢の中の少女という奴かね?」
「わかりません。ただ、気になって…」
「わかった、施設の方は私が当たろう。昼頃には迎えに行けると思う」

P(間)

草原

『中1の時、この草原で女の人と会った。その人がボクの夢の中に出る少女と同じなら、ここに何かがあるはずだ。すべてはあの夏至の新月の夜に始まったのだから』

「やっぱりただの草原か。暗くなってから来るべきだったかな…。ん?」

草が一方向に倒れて直径1メートルほどの円形の輪を形成している

「この円は…。森で見付けたのと同じ…」

白い光に飲み込まれる

「な、なんだ!?まぶしい…!う、うわーっ!」

ガタガタバタバタと、のたうちもがくような音
複数の荒い息に混じって、女の声がする

「こ、これは…」

「いや、たすけて、いや、こないで、いや、いや、いや、いやーっ!」

ノイズ

森と湖、髪の長い少女が居る

「こうして私の上にフクロウがとまった」
「キミは…岡崎椎名さんですね」
「探しものがあるはず。パンに水銀を浸して水に放る」
「夏至の月の無いあの夜、ボクはあなたと会ってるんです」
「フクロウが私を連れていく。ナイチンゲールは飛んでいく」

ノイズ

「…夏見君、夏見君!」
「水浦、さん?あ、ここは?」

夜、大きな岩が規則的に並んでいる

「遺跡か何かの跡だろう。キミはここに倒れていたんだ」
「そんな、ボクは草原に…。それにまだ昼前だったはずなのに…」
「迎えに来るのが少し遅れてね。連絡しようにも携帯が繋がらなかったんだよ。…しかし、この山に草原なんかなかったよ」
「そんなばかな、現に……、なんだこの白いのは?」

土の上に白い粉と泡の中間のようなものの塊

「キノコ…エチノミトライトか」
「あの死体に付着していた…?」
「夏見君、まさかまた例の夢を?」
「…はい。水浦さんと別れた後、ボクが中1の時にある女性と出会った草原に行きました。よく覚えてないけど、その人の感じが夢の中の少女と似てるんです。それで、草原で草を倒した奇妙な輪を見つけた時、白い光に包まれて…」
「奇妙な輪?」
「はい。そう、ミステリーサークルのような」
「ヨーロッパの農村でそのような輪が出来ることがある。当地では妖精の輪と言われているのだが、その輪の付近に出来るのが膨らんだ白いキノコ、エチノミトライトだ」
「え?」
「それで、どんな夢を?」
「はい、目の前が真っ白になった後、バタバタ煩い音がして、それでその…女の人の嫌がる声が聞こえて…」
「それから?」
「いつものようにザーッて音がして、少女が現れて、フクロウがどうとか。そう、とまったとか連れて行くとか」
「フクロウ?フクロウは死を運ぶ鳥だ…。他には?」
「えっと…」

回想、髪の長い少女

─ 探しものがあるはず。パンに水銀を浸して水に放る

「はい、探し物がどうとか。パンに水銀を浸して水に放るって」
「それは探し物が見付かるまじないだな。…なるほど、やはりキミの夢に登場する少女は岡崎椎名本人なのかもしれない」
「あ、施設で何かわかったんですね」
「大分暗くなってきたな。それは車の中で話そう。…しかし、今日は不気味な夜だね。夏至だというのにもう真っ暗だ。それに月も無い」

P(間)

車中

「岡崎椎名は中学を卒業後、高校には行かず町の食品関係の工場で働きだした。養護施設側は高校に進学することを勧めたが、彼女の希望でね。得た収入の半分以上を施設に寄付していたそうだ」
「…えらいですね」
「それが働き出して2年目、今から5年前の6月21日…ちょうど今日の夏至の日だね…突如として行方をくらます。それから全く音沙汰無しだったが、20日後、前触れもなしに突然、施設に現れた。服はボロボロ、体は疲労困憊、まるで拷問を受けたかの様子だったそうだ」
「ひどい…」
「以来彼女は心を閉ざしてしまった。それで精神の治療のためにあるところに送られた。それが井出幹人のサナトリウムだ」
「それって…」
「ここまで偶然が続くと思うかね?施設でわかったのはここまでだ。その後の岡崎椎名の足取りはつかめていない。そういったわけで、明日、井出幹人のサナトリウムに行こうと思っているのだが、キミはどうする?」

「行きます」

P(間)

by zan9h | 2009-11-27 23:24 | パルス | Comments(2)

Commented by オレンジ君 at 2009-11-28 07:25 x
場面転換が多くて頭が付いていかないので、場面説明、人物説明の文を増やしていただけると読みやすくてありがたいです。
Commented by zan9h at 2009-11-28 22:24
元がラジオドラマの脚本なのデス
本当は台詞の合間にSEや曲が入るんだけどそこの部分に場面や人物を端的に書いてるんで、小説調に読むとわかり難いかも

残りは多少説明付けるようしてみる
尺が決ってるんで話の進行早い(場面転換多い)のは勘弁して