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パルス②

森の中に白い建物
細身の青年が窓を拭いている




「こんなところに…。あ、すいませーん!」
「はい、何か?」
「あの、ぶしつけですがここは…」
「サナトリウムですよ」
「サナトリウム?」

「本来は結核患者の療養施設を指す言葉ですが、ここは精神疾患の治療を目的にしています。自然に触れることで心を落ち着かせる、といったらいいのかな」
「はぁ…。あ、どうもありがとうございます」
「ところで、あなたは誰に会いにきたのですか?」
「は!?あ、いや、別に」
「そう。なら、せっかくだから先生に会っていかれては?簡単でおもしろい心理ゲームなどやってもらえるかもしれませんよ」
「ああ、テレビとかでよくやる。面白そうですね」
「私は加賀美恭二といいます。先生は井出幹人。ここの責任者でもある心理学の先生です」
「ボクは賀集夏見です。どうぞよろしく」

P(間)

診察室
眼鏡をした白衣の中年男性が椅子に座っている

「…なるほど。夢の中の少女が語ったことがこの場所と符合するわけですね」
「はい」
「それは興味深いですね。賀集さんはパルスという言葉をご存知ですか?」
「確か、波とか波長とか。いや、こう何か、あ、鼓動だ」
「ニュアンス的には何かが震えて伝わる様子を表す言葉ですね。直接的なコミュニケーションの方法としては言語や身振り手振りなど実際に聞いたり見たりするものがありますが、その他の手段があるとしたらなんだと思います?」
「テレパシーとか」
「はははははっ。賀集さんはユニークな方ですね」
「…すみません」
「まあ、いいでしょう。ところで、賀集さん簡単な心理テストをしてみませんか?」
「え?」
「ほら、やる気が起きないって言ってたでしょ?その原因を単純な催眠で突き止めるのです。加賀美君、準備して」
「はい、先生。そう怖がらなくていいですよ、夏見君。ほんの遊びだと思って」

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火が灯った蝋燭

『ボクはロウソクの火を一点に見つめている。井出先生がその炎を揺らし数を数えると次第に意識が落ちていく。深くゆっくりと』

草原

『そこは草原。そうだここは父の仕事でこの町に来る前に住んでいた町。中1の時、夏至の月の無い夜、仲間と肝試しで学校の裏山に入りはぐれて行き着いた場所だ。そこで誰かと会った』

髪の長い女性らしきシルエット

「何をしているの?」
「月を見ているの」
「今日は月は出てないよ」
「目に映らなくても月は存在する。だから祈っているのよ」
「どうして?」
「綺麗になりたいから」
「泣いているの?はい、これ使って」

白いハンカチ

『その後の記憶は無い。気が付くと次の日の朝、家の前に居た。両親にひどく叱られた。草原で出会った女の人の顔は覚えていない』

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診察室

「思春期に強烈なインパクトを受けるとそれが一種のトラウマとなって、他のものへの関心が薄くなる。あなたの場合はその草原で出会った女性。典型的的なアパシー、無気力症に掛かっていますね。てっとり早い解決方法は要因となっているその女性の正体を暴くことですが、現実としてまあ難しいでしょう」
「はぁ」
「何か趣味を無理にでも持って気長に回復を待つことです。加賀美君、機材を片付けておいて」
「はい、先生」

ドアが閉まる

「加賀美さんは先生の助手なんですか?」
「いや、患者だよ」

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by zan9h | 2009-11-26 21:14 | パルス | Comments(0)