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狐の嫁42

少々飲みすぎた。
歩いて帰るのも億劫なのでタクシー。

車窓に映る景色を眺める。
薄い雲に隠れた月がぼんやりと輝いている。

「こういうのを朧月夜と言うんですよ」

運転手が言った。

「こんな夜はね、出るんですよ」
「何がだい?」

聞き返して、しまったと思う。
これはパターンだ。いつものやつ。

クククと笑い振り向こうとする…顔を抑えた。

「な、なにするんです!?」
「こっちはいい加減場慣れしてんだ。そうやすやす引っかかるかよ!」

夜叉か般若かそれとものっぺらぼうか。やらせはせん。やらせはせんぞっ。

「あ、あぶないですって」
「うっさい。このばけも」

キキーッと滑ってグルリ回転し、ドボン!…ドボン?水だ。さては川にでも落ちたか。
…そりゃまずいよね。

「がぼがぼがぼ」

ギャー!死ぬーっ!!

「起きろ、うつけ」

瞼を開けば、まんまるお月様と見慣れた女の顔。狐。あれ?
身を起こす。草ぼうぼうの河原。

「道から転げ落ちたのか…」
「いや。朧車だ」

狐はニマリ笑いこーんと一鳴きすると、くるり回転しどろんと消えた。

草むらに積み上がる古タイヤ。
月が雲に隠れ、朧になった。

by zan9h | 2008-11-11 21:28 | 狐の嫁 | Comments(0)