狐の嫁7
恩返し。
鶴が機織ったり、地蔵が米持ってきたり、犬が埋蔵金見つけてくれたりするアレ。
中でも代表的なのは浦島であろう。
亀助けたら竜宮城に招待。
めくるめく酒池肉林の日々。
そりゃ、現世に戻ったら老け込むわな。
ところで人間が恩を返すとしたらどのような手段を講じるだろう。
てっとり早いのが接待だ。そしてそれに相応な場所がある。
鯛や平目が舞い踊り、財布の中身も舞い踊りましたとさ。
「時が過ぎるのも忘れ留まった人間が間抜けだ」
だいたい竜宮なぞ怪しげな所は人を骨抜きにする、と自分の言葉に頷く女。
この女。
切れ長瞳の一見すると絶世の美女は、我が家の冷蔵庫に巣くう狐だ。端的に言うと妖怪。
「本当に鯛や平目を奢らされるとは」
「甲斐性の無い奴と思っていたが、中々に美味い店であったぞ」
「ずいぶん高く付いた。これじゃぼったくられてた方がマシだ」
「兎はしつこいぞ~。毛を毟り尽くすまで搾り取る」
かんらからと笑う女狐。
月光に映える細面がとても美しいのが本当に腹立たしい。
「ところでそこな犬」
犬?
立ち止まる狐。道行く先の木立の陰から強面が3人。
「よう姉ちゃん、うちのシマ荒らしてくれたそうじゃねぇか」
肩で風切りサングラスの隙間からメンチを切る男。
「落とし前付けたらんかい」
サングラスの両脇がへいと返事し、ボキボキ指鳴らして近付いてきますよ。
一人が女の肩を掴んだ一瞬。
燃えた。
顔面に青白い炎が点り、もんどりうって倒れる。
呆然とするもう片方の背中からも続いて出火。奇声とも悲鳴ともつかない声を揚げる。
「な、なんだ?何しやがった?!」
あからさまに狼狽するサングラス。狐がククと喉を詰まらせる。
「狛犬や犬神ならいざ知らず、飼い犬ではまだ野良の方がマシだ」
狐が指を弾くとサングラスがボッと炎上。蟇蛙のような声を出し腰を抜かす。
「機嫌が良いので見逃してやる。早々に立ち去るがいい」
頭と背中を焦がした二人がへたり込む男の脇を抱え、尻尾巻いて退散。
「まったく兎ごときに踊らされおって」
「おまえ、そんなことも出来るのか?」
掌に点った炎を握り潰す。
「齢百を越えた狐は炎を一つ出せるようになる」
「おまえは幾つ出せるんだ?」
ニマリ笑う狐。
「百はかたいな」
「何歳だ!」
「女に年を聞くとは野暮だな」
ずいと顔を近付けられる。切れ長の瞳から長い睫毛がばっさばさ。
「才能の問題だ。あたしゃまだまだ若い」
ぴちぴちだと言い残し、女はくるり回転し狐の姿に戻ると、どろんと消えた。
夜道に、こーんと鳴き声が響く。
鶴が機織ったり、地蔵が米持ってきたり、犬が埋蔵金見つけてくれたりするアレ。
中でも代表的なのは浦島であろう。
亀助けたら竜宮城に招待。
めくるめく酒池肉林の日々。
そりゃ、現世に戻ったら老け込むわな。
ところで人間が恩を返すとしたらどのような手段を講じるだろう。
てっとり早いのが接待だ。そしてそれに相応な場所がある。
鯛や平目が舞い踊り、財布の中身も舞い踊りましたとさ。
「時が過ぎるのも忘れ留まった人間が間抜けだ」
だいたい竜宮なぞ怪しげな所は人を骨抜きにする、と自分の言葉に頷く女。
この女。
切れ長瞳の一見すると絶世の美女は、我が家の冷蔵庫に巣くう狐だ。端的に言うと妖怪。
「本当に鯛や平目を奢らされるとは」
「甲斐性の無い奴と思っていたが、中々に美味い店であったぞ」
「ずいぶん高く付いた。これじゃぼったくられてた方がマシだ」
「兎はしつこいぞ~。毛を毟り尽くすまで搾り取る」
かんらからと笑う女狐。
月光に映える細面がとても美しいのが本当に腹立たしい。
「ところでそこな犬」
犬?
立ち止まる狐。道行く先の木立の陰から強面が3人。
「よう姉ちゃん、うちのシマ荒らしてくれたそうじゃねぇか」
肩で風切りサングラスの隙間からメンチを切る男。
「落とし前付けたらんかい」
サングラスの両脇がへいと返事し、ボキボキ指鳴らして近付いてきますよ。
一人が女の肩を掴んだ一瞬。
燃えた。
顔面に青白い炎が点り、もんどりうって倒れる。
呆然とするもう片方の背中からも続いて出火。奇声とも悲鳴ともつかない声を揚げる。
「な、なんだ?何しやがった?!」
あからさまに狼狽するサングラス。狐がククと喉を詰まらせる。
「狛犬や犬神ならいざ知らず、飼い犬ではまだ野良の方がマシだ」
狐が指を弾くとサングラスがボッと炎上。蟇蛙のような声を出し腰を抜かす。
「機嫌が良いので見逃してやる。早々に立ち去るがいい」
頭と背中を焦がした二人がへたり込む男の脇を抱え、尻尾巻いて退散。
「まったく兎ごときに踊らされおって」
「おまえ、そんなことも出来るのか?」
掌に点った炎を握り潰す。
「齢百を越えた狐は炎を一つ出せるようになる」
「おまえは幾つ出せるんだ?」
ニマリ笑う狐。
「百はかたいな」
「何歳だ!」
「女に年を聞くとは野暮だな」
ずいと顔を近付けられる。切れ長の瞳から長い睫毛がばっさばさ。
「才能の問題だ。あたしゃまだまだ若い」
ぴちぴちだと言い残し、女はくるり回転し狐の姿に戻ると、どろんと消えた。
夜道に、こーんと鳴き声が響く。
by zan9h | 2008-05-09 21:29 | 狐の嫁 | Comments(0)