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狐の嫁87

雨は降り続いている。
だいたい把握した。うちに居る。正確には憑かれている。具体的には台所ら辺。

「飢饉がありました」

女が言った。
冷蔵庫の前に立つその顔は見知った顔。切れ長瞳の絶世の美女。

「役立たずの神は人々に忘れられました」
「…だから今度は雨乞いをした?」
「誰にも悲しい思いはして欲しくないから」

はらはらと涙を零す。…。

「嘘付け!おまえ雨女だろっ!!」

狐がそんな殊勝なことを言うはずが無い!
女は一瞬きょとんとして、それからニマリと笑った。

「ばーれーたーかー」

ぽたりぽたり項垂れた髪から雫が滴り落ち、床に零れて…前回は洪水になりましたが。

「そう同じ手を食うかよっ!」
「ギャーッ!!」

乾燥剤を投げ付けてやった。こっちは鍛えられてんだ。場数じゃ負けないぜっ。
のたうつ雨女。見る見るうちにしわがれて…なんか可哀そうなんで水差してやった。

「お~の~れ~」

凄い形相で睨まれる。やべっ。逃げろっ!
と、茶の間に出たらなんか居た。いつぞやのおっさん。雨ん中、庭先で踊っちょる。

「やあ、ハニー!」
「ダ…ダーリン!?」

なんですと?

「捜したよ、ハニー」
「え!?あんな酷いこと言って出てった私を?」
「さあ、帰ろう」
「…はいっ」

雨女は窓から飛び出すと、おっさんの胸に飛び込んだ。
くるりくるくる二人、雨に踊って昇天。…なんですのん。なんですのん??

「たっだいまー」

聞き慣れた声に振り向けば、見慣れた顔。
切れ長瞳の絶世の美女。白いワンピに麦藁帽子。そんで何故かメロン抱えてる。

「…貴様、今までどこにいた?」
「北海道」
「は?」
「梅雨時は湿って毛並みの調子が悪いからな」

かんらから笑いなさる。…。

「ところで北海道なんてどうやって行ったんだ?」
「飛行機」
「よくそんな金が…」

!?まさか。狐がポンと掌を打つ。

「梅雨明けだけに、湿った話は無しにしよう」
「ざけんなっ!」

狐は土産と言い残しメロンを放ると、こーんと鳴いてくるり回転しどろんと消えた。

雨はいつの間にか止んで、雲間からパーッと日が差した。

by zan9h | 2009-08-14 23:36 | 狐の嫁 | Comments(0)